トーナメントの注意を受ける選手たち
|
スタートを見守る和歌山県立紀北工業・矢野慎君(左)と岐阜県立可児工業・井戸弘士君(右)
|
2回戦で対戦した岐阜県立可児工業・坪井大地君(左)と長野県駒ヶ根・矢澤美貴さん(右)
|
2回戦で対戦した香川県立高松工芸・樽和樹君(左)と熊本県立球磨工業・土屋大樹君(右)
|
昨年の大会でコース上をマシンが縦横無尽に駆け回り、ワンツーフィニッシュを決めた岐阜県立可児工業高等学校。今大会のメンバーも凄みのある走りを見せ、ここまでレースの主導権を完全に握っている。そのまま王者がV2を決めるのか、あるいは首に鈴をかける者が台頭するのか。期待と不安が入り混じる中、32台のツワモノどもが顔を揃えたAdvanced Class決勝トーナメントの幕が切って落とされた。例によって、コースは予選とは逆走する形に変更されている。早速、Aコースに予選1位の坪井大地君、Bコースに同2位の井戸弘士君が立ち、可児工業高等学校の両雄が同時に1回戦を迎えた。選手及び会場全体が注視する中、両者のマシンはいずれも淀みない走りを披露。坪井君は16.71秒で、井戸君は16.66秒で、対戦相手を一蹴した。続いてAコースには、女性で唯一予選を突破した長野県駒ヶ根工業高等学校・矢澤美貴さんが登場。九州チャンピオンの強豪、熊本県立御船高等学校・歌野寿英君との対戦である。レース前には「先輩たちが仲間として見てくれますのでこの競技をやっていてすごく楽しいです。できれば、ベスト16に入ってみたいですね」と抱負を語っていた矢澤さん。レースでは、歌野君のマシンがコースアウトしてしまい、17.32秒でゴールした矢澤さんが、見事に自己目標を達成した。その後、予選上位者が勝ち残るレースが続いた。しかし、Aコース7組目に、予選20位につけた一昨年チャンピオンの熊本県立球磨工業高等学校・土屋大樹君が、予選13位の香川県立三豊工業高等学校・村上大吉と対戦。かつてこの大会で何度もしのぎを削った伝統校同士の対戦は、村上君のコースアウトにより土屋君に軍配が上がった。「今回はなかなか調子が上がらず、北海道に出発するギリギリまで調整を続けました。ただ、やるべきことはやったので後は頑張るだけです」と2度目の頂点へ向け、土屋君は静かに闘志を燃やしていた。そして、Bコース最終組に今大会最大の波乱が待ち構えていた。レースは、優勝候補の岐阜県立可児工業高等学校・神谷侑希君が17.19秒を計測し、18.25秒でゴールした北海道苫小牧工業高等学校・古田元氣君を難なく退けたかと思われた。しかし、副審が脱輪を示す赤旗を高々と上げている。主審の説明を受ける神谷君の表情からは、みるみる血の気が引いていく。いったい何があったのか? 本人を直撃すると「レーンチェンジで壁に触れてしまったようなんです。正直、何が起こったのか自分でもわかりません」と肩を落とす。それでも、チームの中心として勝ち残っている選手をサポートする大役があると気を取り直し、控室へと急いでいった。こうして、鉄壁かと思われた可児工業の一角が崩れたのである。しかし、ベスト16の戦いの場においても残った同校2選手のマシンには微塵の陰りも見られない。Aコース第1組の坪井大地君は16.51秒で、17.31秒の長野県駒ヶ根工業高等学校・矢澤美貴さんを下し、Bコース1組目の井戸弘士君は16.45秒で、17.71秒の福岡県立福岡工業高等学校・大倉崇暢君を圧倒。ともに、絶好調の勢いである。続く第2組になると、今度は富山県勢がA・B両コース上を支配する。まずAコースは、富山県立砺波工業高等学校・瀬川一樹君と、富山県立富山工業高等学校・山口雅史君の対戦だ。予選順位もタイムも僅差の二人の戦いは、16.88秒でコンマ1秒上回った瀬川君が勝利した。同じころBコースには、富山県立富山工業高等学校・寺井敬祐君が登場し、16.81秒と上々のタイムで勝ち上がる。Bコース3組目にも、富山県立富山工業高等学校・坪田佳祐君が登場。17.10秒で勝ち抜け、北信越地区チャンピオンの実力を見せつけた。Aコース最終組は、16秒台を連発してきた香川県立高松工芸高等学校・樽和樹君が16.53秒とさらに調子を上げ、一昨年チャンピオンの熊本県立球磨工業高等学校の土屋大樹君に競り勝つ。そしてまたも、Bコース最終組に波乱があった。予選3位の岐阜県立可児工業高等学校・神谷侑希君の脱輪によって1回戦を突破した、北海道苫小牧工業高等学校・古田元氣君が、実力者のひとりである長野県駒ヶ根工業高等学校・竹村将太君のコースアウトをしり目に、18.19秒でゴール。全国大会では長らく低迷を続けた大会発祥の地・北海道勢として、実に久しぶりのベスト8へ進出。チームメイトが大きな声援を送る方へ、ガッツポーズを決めた。同校選手は参加した全員が派手なパフォーマンスで大会を盛り上げてくれた。「仲間たちと一緒にどうすれば盛り上がるか考えてきました。ラッキーもありましたが、ベスト8はひとつの成果だと素直にうれしく思います」と笑顔を見せてくれた。
ベスト8に残った猛者たち
|
準々決勝1回目の富山県立砺波工業・瀬川一樹君(左)と岐阜県立可児工・坪井大地君(右)
|
準々決勝3回目・スタートゲートに向かう岐阜県立可児工業・井戸弘士君(左)と富山県立富山工業・寺井敬祐君(右) |
優勝・井戸弘士君(左)と準優勝・坪井大地君(右) おめでとう!!
|
さてここで、ベスト8の顔ぶれを地区別におさらいしよう。昨年団体優勝の東海地区から2選手、高いレベルを誇る北信越地区から3選手、実力者揃いの四国地区から2選手、そして北海道の1選手だ。例年、複数名が名を連ねてくる九州地区は、残念ながら一人も残れなかった。来年以降の奮起を期待したい。さて、コースに目を戻すと、ベスト4をかけた戦いが始まろうとしている。まずは、岐阜県立可児工業高等学校・坪井大地君と、予選9位から着実にタイムを上げてきた富山県立砺波工業高等学校・瀬川一樹君の対戦。スタートするや、両者がっぷり四つの目が離せない展開に。最終コーナーを立ち上がった時、坪井君のマシンが優勢。そのまま、16.39秒を出した坪井君が、16.78秒の瀬川君とのハイレベルな戦いを制した。次はくしくも、香川県立高松工芸高等学校同士の対戦となった。予選4位から上位を見据えた戦いを繰り広げてきた樽和樹君は、四国地区大会の覇者。同僚の人見和也君も予選5位につけ、ここまで打ち出してきたタイムも両者は拮抗している。まさにどちらが勝っても不思議ではない戦いである。レースは、全く予断を許さない展開に。どちらがリードしているのか判然としないまま、最終コーナーへ。樽君のマシンが16.51秒を刻み、16.60秒の人見君のマシンを僅差で退けた。続いてのレースは、岐阜県立可児工業高等学校・井戸弘士君と、富山県立富山工業高等学校・寺井敬祐君の対戦。事前のプラン通りタイムを上げてきた井戸君に一日の長があると見られた。レースは、寺井君が不覚のコースアウト。その側を猛スピードでかすめた井戸君のマシンが計測したタイムは、何と16.13秒。この猛アタックに、会場は圧倒されるばかりであった。最後は、富山県立富山工業高等学校・坪田佳祐君と北海道苫小牧工業高等学校・古田元氣君の対戦。善戦を続けた古田君のマシンは、ここで制御を失いコースアウト。17.12秒を打ち出した坪田君が順当勝ちを収めた。続いては、ベスト4の戦い。まず、岐阜県立可児工業高等学校・坪井大地君と対戦したのは、ここまで高いレベルで安定したレースを展開してきた香川県立高松工芸高等学校・樽和樹君。可児工業の快進撃を止めるポテンシャルを持つのは、樽君のマシンを置いて他にないと見られた。しかし、ここで樽君のマシンはスピードに耐えきれず、無念のコースアウト。坪井君がいよいよ決勝レースへと進出した。準決勝もうひとつのレースは、可児工業・井戸弘士君と、北信越大会チャンピオンの富山工業・坪田佳祐君の対戦。このレースにかけていた坪田君のマシンは、16.87秒と決勝トーナメント自身初の16秒台に突入してゴール。しかし、そのはるか先に16.20秒でゴールした井戸君のマシンがあった。決勝戦に先だって行われた3位決定戦は、前走で不覚の脱輪を喫したもののしっかりと立て直し、高松工芸・樽君が16.56秒でフィニッシュ。「高校生として最後の大きな大会で3位に入ることができて、本当にうれしい気持ちです」と微笑んでいた。さて、ついに「ジャパンマイコンカーラリー2011全国大会」ファイナルレースのステージに、二人の勇者が挑む。対戦は昨年と同じく、岐阜県立可児工業高等学校同士。インスタートが坪井大地君、そしてアウトスタートが井戸弘士君だ。予選から決勝トーナメントに至るまで、どちらもそん色ないレースを繰り広げてきただけに、勝者がどちらかはまったく予想がつかない。かたずをのんで見守る会場には、息をすることも気が引けるほどの緊張感に包まれる。その空気をつんざくように、決勝レースのゲートが開いた。車体形状といい、鋭いパフォーマンスといい、まるで双子のような2台のマシンはコース上の難関を飛ぶようにクリア。そして最終ストレートで並んだ2台の差はごくわずかだ。しかし、ほんの少しだけ先に長いノーズをゴールラインに到達させたのは、井戸君のマシンであった。「昨年、先輩が成し遂げたくれたことを、今年も再現しようと皆で頑張ってきました。チームの勝利だと思います」と言う井戸君は16.31秒。「彼には一度も勝てていないので本番では何とかしたかった。良いライバルとして来年も頑張ります」と悔しさをにじませた坪井君は16.37秒。決勝レースが、今大会屈指の僅差のレースともなった。それにしても、二人はともに2年生。岐阜県立可児工業高等学校の黄金時代が到来したことを、疑う者はいないであろう。
|