コース脇でマシンのセッティングを確認する選手たち
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1回戦で対戦した石川県立大聖寺実業高校・村佳明君(手前)と熊本県立球磨工業高校・渡麗央君(奥)
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1回戦で対戦した岐阜県立可児工業高校・中島康文君(左)と神奈川県立磯子工業高校・釼持俊雄君(右)
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2回戦で対戦した富山県立富山工業高校・寺井敬祐君(左)と福岡県立福岡工業高校・井手佑一君
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Basic Class決勝レースの余韻が残るコースに、にわかにメンテナンス作業員が集合し、ゴールゲートが一旦取り払われた。Advanced Class 決勝トーナメントは例年通り、予選が行われたコースを逆走する方式がとられるため、その準備作業が始まったのである。このコース変更が、毎年のように波乱を呼び込む。かくして今回も、ある選手たちには非常に酷な現実を突き付け、またある選手たちには大きな幸運をもたらすこととなった…。入念なコースメンテナンスを経たため予定時間をやや過ぎた頃ようやく、32台の精鋭たちがコースに姿を現した。この1年間、彼らが重ねてきた努力の結晶とも言えるマイコンカーの中から、今まさに最速マシンが決まろうとしている。まずは、今回の予選で旋風を巻き起こした福岡県立福岡工業高等学校の大倉崇暢君がAコースに、同じく井上翔太君がBコースに登場。決勝トーナメントでのふたりの走りはいかに? 会場全体の注目が、彼らのマシンに注がれた。同時にスタートした2台の走りは、予選で見せた快走を再現するかのように鮮烈である。大倉君は16.55秒、井上君は16.60秒と、共に対戦相手を寄せ付けなかった。Aコース2組目では、早くも波乱が巻き起こる。富山県立富山工業高等学校・坂井志穂さんのマシンと、香川県立多度津高等学校・志波佑翼君のマシンが揃ってコースアウト。両者は予選のタイムが全く同じだったため再レースとなるも、またもや両者ともコースアウトを犯してしまう。かくして、三度目のスタートを切るという珍事となったこの対戦は、16.65秒で完走した志波君の勝利となった。波乱は波乱を呼ぶのか、その渦に最初に引き込まれてしまったのは、Bコース5組目に登場した岐阜県立可児工業高等学校・中島康文君だった。スタートゲートにセットした中島君のマシンは、なぜか起動しない。そのまま持ち上げとなり、決勝トーナメントを1度も走ることなく姿を消すことになった。そしてその頃、Aコースに出走していたチームメイトの犬飼英明君は、まさかのコースアウト。対戦相手のコースアウトによりかろうじて勝ち上がるも、次戦に大きな暗雲が立ち込めた。会場がざわめく中、Aコース6組目に登場したのは、昨年ベスト16に進出した実力者、長野県駒ヶ根工業高等学校・矢澤美貴さん。「昨年の経験から、コーナーを制する者が全国を制すると感じ、強化をしてきました」と自ら語り、周囲も女性初のチャンピオンが生まれるとしたら彼女以外にはないと、大きな期待を寄せていた。しかし、波乱の矛先は矢澤さんにも向けられていたのか、S字カーブでコースアウト。16.67秒と、優秀なタイムで走破した香川県立高松工芸高等学校・坂本龍征君が勝ち上がった。1回戦最終組では、まずAコースを走った予選4位の福岡県立福岡工業高等学校・井手佑一君のマシンがコースを逸脱するも対戦相手のコースアウトにより予選タイムによって勝ち上がり、Bコースを走った予選3位の岐阜県立可児工業高等学校・森藤翼君のマシンも激しくガードレールにヒットしてストップ。こちらも対戦相手が脱輪し、予選タイムに救われた。この時、森藤君のマシンはセンサーのコードが破損する痛手を被り、次戦出走に黄色信号が灯る。とにもかくにも、ベスト16によるレースが始まった。まずは、例のごとく福岡県立福岡工業高等学校の両雄が並び立つ。Aコースの大倉崇暢君は16.57秒、Bコースの井上翔太君は16.48秒で、問題なく勝ち名乗りを上げる。Aコース2組目は、香川県立高松工芸高等学校・関元大幹君と、熊本県立球磨工業高等学校・木村弘幸君の対戦。どちらも優勝候補に挙げられているだけに、両者一歩も譲らない好レースが展開された。そして軍配は、16.68秒を刻んで木村君のわずか先にゴールした関元君に挙がった。Aコース3組目は、トーナメントに入ってから未だに実力を発揮できていない岐阜県立可児工業高等学校・犬飼英明君が、またしても無念のコースアウト。対戦相手の香川県立高松工芸高等学校・坂本龍征君もコースアウトするも、前走で16.67秒の記録を残していた坂本君が勝者となり、岐阜県立可児工業高等学校の連覇への道は困難を極めてきた。さらに、同校の受難は続いた。前走のクラッシュで故障したエース森藤翼君のマシンは、修理が認められて一旦コースを去ったのだが、スタート台に再び立つも痛手は予想以上に甚大であった。発走直後のカーブを曲がり切れず、無念の敗退となってしまったのである。ガックリと肩を落とす森藤君だが、まだ1年生である。リベンジを胸に、来年再びこの場に立って大いに暴れてくれることであろう。
準々決勝最初の対戦・香川県立高松工芸高校・関元大幹君(手前)と福岡県立福岡工業高校・大倉崇暢君(奥)
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準決勝1回目の富山県立富山工業高校・寺井敬祐君(右)と福岡県立福岡工業高校・大倉崇暢君(左)
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準決勝2回目・ゴールした福岡県立福岡工業高校・井上翔太君(左)とゴール間近の佐賀県立塩田工業高校・釘尾椋介君(右)
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優勝・井上君(左)と準優勝・大倉君(右) おめでとう!!
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かくして、ベスト8が出揃った。九州地区から4校、四国地区から2校、北信越地区と南関東地区からそれぞれ1校という顔ぶれである。奇しくも、実力がありながら昨年は1校も残れなかった九州地区が、失地回復を果たした格好となった。さて、ここからはAコースのみでレースが行われる。準々決勝最初の対戦は、今や主役に躍り出た福岡県立福岡工業高等学校の大倉崇暢君と、虎視眈々と上位をうかがう香川県立高松工芸高等学校・関元大幹君のカード。大倉君のマシンには微塵の陰りもなく、16.38秒とまさに絶好調。対する関元君はここで力尽きたか、突如制御を失いコース外へ飛び出してしまった。2組目は、関元君のチームメイト坂本龍征君と、予選13位からここまで粘り強く競り勝ってきた富山県立富山工業高等学校・寺井敬祐君の対戦。ここでは両者ともにコースアウトとなり、前走で17.02秒の記録を残している寺井君が勝ち上がる。3組目は、九州地区同士の対戦である。大会を制圧してきた福岡県立福岡工業高等学校・井上翔太君と、これまで九州地区を引っ張ってきた伝統校・熊本県立球磨工業高等学校が誇るエース恒松弘樹君の好カードだ。群を抜く安定感を見せてきた井上君のマシンが、16.50秒で先着。恒松君のマシンも真っ向から勝負を挑んだが、16.73秒と一歩及ばなかった。準々決勝最終レースは、堅実なレースで勝ち上がってきた神奈川県立磯子工業高等学校・剱持俊雄君と、同じように確実に戦ってきた佐賀県立塩田工業高等学校・釘尾椋介君の対戦。ここでもしっかりと、17.17秒を計上した釘尾君のマシンが競り勝った。すかさず舞台は、準決勝へ。まずは、福岡県立福岡工業高等学校の大倉崇暢君と富山県立富山工業高等学校・寺井敬祐君が対戦。ここでも大倉君のマシンは快調に走行し、16.36秒と文句なしのタイムで、ついに決勝レースへの出走権をゲット。コースアウトを重ねながらもなんとかここまでコマを進めてきた寺井君のマシンはクランクで飛び出し力尽きた。次なる対戦は、福岡県立福岡工業高等学校・井上翔太君と佐賀県立塩田工業高等学校・釘尾椋介君の、またもや九州地区同士のカードである。持ちタイムからも差は歴然であり、井上君は16.44秒で大差のゴール。ここで、福岡県立福岡工業高等学校のワンツーフィニッシュが確定した。決勝戦に先立って行われた3位決定戦では、寺井敬祐君、釘尾椋介君の両者のマシンは長い戦いで疲弊し切ったのか、ほとんど同時にコースアウト。準決勝を17.25秒で完走していた釘尾君のマシンが、3位入賞の栄冠を獲得した。「運も見方してくれましたが、確実に走れたことがここまでこれた大きな勝因です」と、釘尾君は素直に喜びを表現していた。そして、全110台の中から栄えある決勝レースのスタートラインに立つことが許されたのは、今大会を終始リードしてきた2台。まさに、この場に相応しい対戦となった。「彼には今まで一度も勝ったことがありませんが、今回は僕が勝ちます」と語る大倉崇暢君に対し、「完走しなければ何もないので、とにかく自分の走りに徹したい」と井上翔太君。しかし、スタートを前に思わぬ事態が待っていた。レース直前のタイヤの粘着性チェックで、大倉君のマシンに張り付いたカードが規定時間内に落ちてこない。すなわち、基準を超える高い粘着を示したのである。このままでは、スタートラインにすら付けない。「静電気を取り除いたことが、悪い方に出てしまったのかも」と語る大倉君の表情には次第に焦りの色が。会場に敷かれたカーペットの上を走らせた後、ようやくチェックをクリアしたものの、マシンのタイヤグリップは大きく失われてしまった。そんなハプニングをよそに、ついに決勝レースがスタートする。並んだマシンは、チームメイト同士であるだけによく似た形状。一瞬の沈黙の後、ゲートが勢い良く開き、両雄は猛然とスタート。が、直後のクランクで、ここまで誰よりも早く安定した走りを繰り返してきた大倉君のマシンはコースを逸脱。16.70秒で走り切った井上翔太君が、新しいチャンピオンとなった。「最後の最後で運がなかったかなあ。でも、結果には満足しています」と微笑む大倉君に対し、井上君も「チームがひとつになって強化を図ってきた成果です」と胸を張った。彼らが築き上げた栄光を誰が引き継ぐのか、あるいは今回辛酸を舐めた強豪の巻き返しはあるのか、はたまた新たな勢力が台頭するのか…。この時点ですでに、来年への戦いは始まった。
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